Updated: 2010/06/08

連載(24)北方領土の味を守り育てる/一爐庵 3代目早川覚さん

By 北海道日刊スポーツ新聞社

連載(24)北方領土の味を守り育てる/一爐庵 3代目早川覚さん

<「ひょうたんぱん」を持つ早川さん>

 「北方領土の味」を伝承している菓子店と職人が根室に根付いている。1928年(昭3)、歯舞群島の多楽島から続く「一爐庵」はJR根室駅にほど近い地元を代表する菓子店だ。3代目、早川覚さん(42)は東京で修行した後、25歳で祖父、父が営む店に戻った。その初日のことだった。「それまではまったく、感じていなかったプレッシャーを、工場に入って感じました」。孫の帰りを待ちわびていた祖父、豊夫氏からその日に教わったのは「桜もち」だった。

 一爐庵の前身、「早川菓子店」が黒糖とごま、小麦粉を焼き上げる「ひょうたんぱん」を発売。多楽島の子どもたち、女性工員たちに人気となった。今でもかつての島民たちが「懐かしい」といいながら購入していくという。北方領土の日などイベントにも配布される島を代表する菓子だ。今でも1日、70袋売れるという。「ごまの量が少し変わっている程度で、基本的には変わっていません。今でも売れていますし、すごいですね」と早川さんは祖父の腕に感謝する。

 積極的に菓子職人になったわけではない。高校卒業後、東京製菓学校に進学した。職人志望で入学した同級生たちにコンプレックスを抱いたこともある。「もともと、菓子はあまり好きではなかった。作りたいという人たちが周りにいて『継ぐ店があるから良いよね』とも言われました。自分は(熱中できず)つらい時期もありました」。卒業後に父も修行した札幌の「一炉庵」に入った。変わり始めた。「菓子を作り始めて、この仕事は好きになった。父、祖父も仕事するようになってそのすごさを感じた。尊敬するようになりました」。悩んだ分だけ、大きく前に踏み出した。

 祖父は和菓子、父の一夫氏は和菓子に加えて洋菓子も同店に持ち込んだ。その父が「新しいことに挑戦していきなさい」と背中を後押しした。99年に豊夫氏が死去。06年には一夫氏が急死した。「菓子のあんはすべて父がやってましたから、病室でその量などを聞き出しました。その後は見よう見まねでしたけど…。大変でしたけど、私は父、祖父の背中を見てきたのだなと。これは財産ですね」。店舗には祖父の和菓子に加え、そして父の独創的な菓子が多くを占める。

 新しいラインアップも加わった。早川さんが04年に発表した「ココチーズ」だ。生チーズタルトは長女、瑚々さん(6)の1歳の誕生日に作った。今では「ひょうたんぱん」と並ぶ店の看板だ。08年からは地元の同業者と「スイーツ研究会」を立ち上げ、会合を持つ。「みんなで根室を元気にしていきたいという思いが強いですね」。歴史に甘んじることなく、根室から笑顔を届けたいと思っている。【上野耕太郎】

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連載(24)北方領土の味を守り育てる/一爐庵 3代目早川覚さん

はっきり言って、うまいです。20分の解凍後に味わう「ココチーズ」

 ◆早川覚(はやかわ・さとる)1968年(昭43)3月28日、根室出身。根室高を卒業後、東京製菓学校に進学。札幌の「一炉庵」、東京の吉祥寺で「ゴッツェ」で修行し、25歳で根室に戻り祖父、父のもとで菓子作りに専念。06年に父の一夫氏が亡くなってから同店の代表に。高校までサッカーを続け、現在は根室サッカー協会の会長。家族は妻と長女。

 ◆一爐庵 1928年(昭3)、早川豊夫氏が歯舞諸島の多楽島に初めての和菓子店「早川菓子店」を開店。「ひょうたんぱん」が子どもたちの人気になった。終戦後の45年、根室に移転し、55年に一爐庵に名称を変更。2代目の一夫氏は札幌の「一炉庵」、東京の「雪華堂」を経て根室に戻った。現在、3代目の覚氏が代表取締役として北方領土から続く味を継承している。住所は根室市光和町1の1。電話0153・23・3895。営業は午前8時30分〜午後7時。定休日は日曜日(月2回)。

【取材後記】
早川さんから、帰り支度をする私に「20分すぎると解凍しますので、よろしければ道中で食べてください」と「ココチーズ」を手渡された。車での移動後、宿泊地に着いて袋を開けた。予想していた以上に黄金色の照りが食欲をそそる。実際に食べてみた。はっきり、言います。取材したからとかではなく、うまいです。今年、お歳暮などはこれにしようかと考えているくらいです。北方領土続く店、地元以外ではほとんど知られていない希少価値。ストーリー性も十分。先物買いというわけではありませんが、ぜひこの味を全国の人に味わっていただきたいと思いました。【上野耕太郎】


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